Zac Fukuda

ル・コルビュジエ『建築を目指して』

私事だが、この本は士別から稚内へ向かう列車、ホテルへのチェックイン待機、帰りの列車で読んだ。書いてある内容は哲学的で理解が難しいが、図版が多いので、読むのにはそこまで時間はかからない。

『もの見ない目』と題された章は、船、飛行機、自動車について書かれており、何が「建築を目指して」なのかを解釈するには、一苦労必要。

いちデザイナーとしては、『指標線(トラセ・レギュラトール)』が理解しやすかった。

指標線、いわゆるガイドラインを引くことを邪道、怠惰でつまらない、想像力に欠ける手法と罵倒する者が一定数いる。自分は間違いなく、この想像力を欠いた一人に分類される。自身に想像力があるとも思っていない。想像力が無いなりに実現可能な手段として指標線を引くので、批判者は的を得ている。反論しようとも思わないので、指標線の話に戻る。

三角形

三角形で幾何学を構成しようとする。その時、先づ思い浮かぶのは1:√3:2直角三角形ないし1:√2直角三角形だ。日本の小中学生はこれ二つの三角定規を使うことを日本政府から命じられる。

1:√3:2直角三角形は各頂点の角度が30°、60°、90°から成り立っており、1:√2直角三角形は各頂点の角度が45°、45°、90°から成り立っている。

この二つの直角三角形を定規として供給するのは合理的だ。1:√3:2直角三角形の30°と1:√2直角三角形の45°を組み合わせれば75°、つまり90°の5/6を得ることができる。直角からのこの得られた角度を差し引けば、90°-(30°+45°)=15°、つまり90°の1/6も得られるわけだ。こうして二つの三角定規から0°から90°まで、15°間隔で得たい角度を得られるのである。

しかし、これらはあくまで三角定規があればの話である。1:√3:2直角三角形、1:√2直角三角形を分度器もコンパスもなしに定規だけで物理世界に再現するのは難しい。

そこで有効になるのが、3:4:5直角三角形である。この直角三角形は偶然にも各辺が整数比から成り立っている。木材を三本3:4:5の比率で切り出し、各木材の頂点が他二本の頂点と重なるように並べれば、3:4:5直角三角形は完成。

3:4:5比三角形
3:4:5比三角形

ローマのキャピトールのはこの3:4:5直角三角形を指標線としデザインされている。

直角三角形 規定 ローマ キャピトール
ローマのキャピトール

比率

指標線における比率という観点から有名なのは黄金比–1:1.618である。折り重ねても比が変わらないことから紙サイズの規格として使用されている白銀比–1:√2もあるが、流通のわりに「白銀比」という名自体はそこまで有名でない印象だ。

しかし、比率業界におけるモノポリー、これら二つの比にも三角定規同様不都合がある。それは正数表現できないことである。

正数で表現できる最も簡単な比率は1:1だ。次に1:2がある。だが、1:2比率は見方を変えれば結局は1:1の組み合わせになる。視覚的安定は表現できる一方で、視覚的躍動感は提供できない結果になってしまうが多い。

1:xがダメなら2:xを考える。2:2は1:1と同じなので、2:3が「2」を基準とする最小比率となる。2:3を「1」基準の比率として表現すると1:1.5。この比率は中間とまでは言えないまでも、先に述べた1:1.618、1:√2の間に収まる比率だ。

正数表現できるという点からもこの2:3は利便性が良い。パリのノートル・ダム寺院はこの2:3の比率から構成されている代表的な建築だ。

パリ ノートル・ダム寺院 半円 幾何学
パリのノートル・ダム寺院